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DX推進
左:久保田(ジャパン・ストラテジー・コンサルタンツ) / 右:若月さま(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス)
グローバル標準と日本特有要件の両立に挑んだSAP S/4HANA導入PMO
― 要件の乖離と混乱、リリース延期を乗り越え、プロジェクトを立て直したその実像 ―
Siemens Healthineersでは、グローバルで進められている基幹システム刷新の一環として、日本法人でもSAP S/4HANAの導入が進められました。グローバル共通の業務プロセスを導入し、業務の標準化やデータの一元化を図ることで、全社的なDX・AI活用を支える基盤を構築することを目的とした、約2年にわたる大規模なプロジェクトです。
同時に、日本特有の業務要件や法令への対応とグローバル標準との両立が求められ、約1,400名規模の日本法人(シーメンスヘルケア及びシーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス)全体の業務に影響が及ぶ極めて難易度の高いプロジェクトでもありました。
本記事では、プロジェクトを牽引した若月様とJSC代表の久保田が、グローバル標準との適合に向けた要件確定の困難さや、そこから生じた混乱やリソース不足といった局面をどのように乗り越え、どのようにプロジェクトを立て直していったのか、その実態に迫ります。
プロフィール
シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社
DXプロジェクトリード
若月 貴志さま
株式会社ジャパン・ストラテジー・コンサルタンツ(JSC)
代表取締役パートナー
久保田 嘉臣
グローバル変革の一環として始まったSAP S/4HANA導入
―今回のSAP S/4HANA導入は、どのような背景で始まったのでしょうか。
若月さま:
今回のプロジェクトは、Siemens Healthineersのグローバル全体で進められている基幹システム刷新の一環として始まりました。グローバルでSAP S/4HANAを導入し、業務プロセスの世界的標準化やデータの一元管理を進めていく方針でした。
導入はドイツ本社から始まり、ヨーロッパ、その後アジアへと展開されてきました。日本はビジネス規模が大きく業務の仕組みも複雑なため、アジアの中でも比較的後半の導入となりました。
日本法人としては、グローバルのタイムラインに沿って導入を進めながら、これまでの業務生産性の維持、日本の法令順守、顧客への影響を最小化することを強く意識していました。単なるシステム刷新ではなく、業務の進め方そのものにも関わる取り組みだったと感じています。
―日本法人として、このプロジェクトで特に難しかったポイントは何だったのでしょうか。
若月さま:
やはり大きかったのは、グローバル標準と日本の業務要件をどうすり合わせるかという点ですね。
プロジェクト初期は、グローバル標準要件の全体像を日本側で理解する機会が十分に得られない中で要件定義が進み、日本側で想定していた要件の一部が最終的に不採用になりました。その結果、プロセス変更やローカルの周辺システム開発が間に合わない状況が生じ、ギリギリのスケジュールの中で追加要件の検討が必要になるなど、プロジェクトは大きく混乱しました。
最終的には、予定通りのリリースが困難となり、リリース時期も大幅な見直しを余儀なくされました。また、日本側の要件が十分に反映されなかったことで業務の大幅な変更が必要な部分も生まれ、リリース後の業務混乱も強く懸念されていました。
そうした状況を受け、プロジェクトの立て直しと新リリース期限の必達がマストとなり、JSCさんにプロジェクトリーダーを補佐するPMOとして参画いただきました。JSCさんには、参画後まずマネジメントや各サブチームのリーダー全員へのヒアリングを通じて、こうした状況に至った原因を整理していただきました。
全リーダーを集めた立て直しワークショップについても主導いただき、プロジェクトの再始動に向けた体制や方針、運営の見直しにとどまらず、マネジメントやグローバル本社の関わり方に至るまで見直しを行っていただきました。
さらに、リリース時期の見直しのおかげで要件を追加で精査する時間が確保されました。JSCさんにも論点や要件整理に関与いただきながらグローバル側と粘り強く折衝を重ねたことで、日本側の追加要件についてもより多く受け入れてもらうことができました。その結果、追加開発やテストも十分に行える状態を整えることができました。
久保田:
日本側では多くの難しい判断や対応が求められていることを感じました。グローバル標準と、日本として守るべき要件の双方をすり合わせて、両者としてベストな状態を実現する必要があります。
また、日本と市場環境や業務の前提が異なるグローバル本社からは、日本の実情が十分に見えていない部分もありました。そのため、それぞれの意向や意図、制約を丁寧に可視化し、国境をまたいだコミュニケーションの質を高めていく必要があると強く感じました。
そうした中で、プロジェクトリーダーを補佐するPMOという立場ではありながらも、第2のプロジェクトリーダーとして全てを拾い、プロジェクト全体を前に進めていくという意識で参画させていただきました。
多国籍プロジェクトにおける合意形成の壁
―プロジェクトを進める中で、重要な論点として議論されていたのはどのような点でしたか。
若月さま:
大きな論点の一つは、多国籍チームの中で認識の差を埋めながら合意形成を進めていくことでした。本社とは時差もあり、日本側には英語でのコミュニケーションに慣れていないメンバーもいました。
その中で、JSCさんには日英双方で対応可能な体制を組成いただき、単なる言語の橋渡しにとどまらず、議論の背景や意図を整理しながらコミュニケーションを支援していただきました。特に、日本側の実情が十分に理解されにくい中で、本社側との難しい交渉にも踏み込んで対応いただいた点は非常に印象的でした。双方の前提や制約を踏まえたうえで論点を整理いただいたことで、構造化されたコミュニケーションが可能となり、日本側・本社側の双方が納得できる形での合意形成につながっていったと感じています。
また、プロジェクト開始当時はまだコロナの影響もあり、日本側のメンバーもオフィスに集まる機会が少なく、リモート中心で業務を進めていました。業務負荷の高い状況も重なり、チーム全体としてコミュニケーションが不足し、メンバーが疲弊している状態でした。
こうした状況の中で、JSCさんの参画後はプロジェクトの立て直しの一環として、プロジェクトメンバー内でのコミュニケーションも強化しました。オフィスでの対面業務の日を設けるとともに、月次の全体会議を新たに設定いただき、プロジェクトメンバー間の情報共有を円滑にする取り組みが進められました。
さらに、月次での表彰(MVP)といった場も設けていただき、メンバー同士を称え合う機会が生まれたことで、チーム全体の一体感や前向きな雰囲気の醸成にもつながっていったと感じています。
―プロジェクトの推進にあたり、難しさを感じた場面があれば教えてください。
若月さま:
リソースの確保は大きな課題でした。そもそも本社側・日本側の双方においてプロジェクトの見積もりが十分ではなく、必要なリソースが適切に割り当てられていない状況でした。本来は専任で対応すべき領域においても兼務のメンバーが多く、加えて全体としての人員も不足していたため、ワークロードに対して十分なリソースが確保できていない状態でした。
この課題に対しては、JSCさんが必要性を強く示し、対応を主導していただきました。必要なリソースを定量的に把握するための分析設計から、データ収集の進め方までリードいただきました。
そのうえで、整理した内容をもとにマネジメント層への説明方針やコミュニケーションの進め方も設計いただき、関係各所を巻き込みながら合意形成を進めていきました。
追加の人員確保は通常業務への影響も大きく、マネジメント側も容易ではない判断だったと思いますが、JSCさんに後押ししていただいたことでマネジメントの意思決定が進み、プロジェクトのピーク時にはメンバーを当初の約1.5倍まで拡充することができました。
混乱したプロジェクトを立て直すJSCの意思決定と実行の支援
―そうした状況の中で、JSCにはどのような役割を期待されていましたか。
若月さま:
当時は私自身も通常業務とプロジェクトを兼任していたため、目の前の対応に忙殺され、プロジェクト全体の状況を管理・把握し、俯瞰して活動を設計するところまで十分に手が回っていない状況でした。そのため、プロジェクト全体を客観的に捉え直し、運営のあり方そのものを整理していただく役割を担ってもらいました。
また、プロジェクトを進めるうえでは、メンバーに期日通りに対応してもらう必要があるタスクが次々と発生します。それを適切に管理するだけでなく、社内の人間同士では伝え方に難しさがある場面では外部の立場から硬軟使い分けて適切に働きかけていただき、プロジェクト全体が円滑に進むよう支えていただきました。
―実際の支援を通じて、プロジェクトの進め方にはどのような変化が生まれましたか。
若月さま:
プロジェクト全体を俯瞰して整理していただいたことで、進め方そのものが大きく変わりました。特に変化が大きかったのは、タスク管理と会議の進め方です。
JSCさんの支援を通じて、プロジェクト全体の論点や優先順位が整理されたことで、導入ベンダーのPMとの会議のあり方も大きく変わりました。
それまで議論が発散しがちで、決定事項やアクションが曖昧なまま終わることもありましたが、議論内容を構造的に整理し、タスクとして切り出して管理できるようになりました。結果として、論点・責任・期限が明確になり、主導権を持って進められるようになりました。
加えて、マネジメントに対するコミュニケーションについても、単なる資料作成にとどまらず、意思決定に必要な論点や伝えるべき内容の整理から、必要な情報の洗い出し・構造化、資料への落とし込み、さらにはコミュニケーションの場の設計まで一気通貫でご支援いただきました。その結果、会議では限られた時間内で議論や意思決定に集中できる環境が整ったと感じています。
忙しくなるとメンバーは目の前の作業に集中しがちですが、久保田さんから「どこに時間を使うべきか」「優先順位はどうあるべきか」を整理していただく場面が多くありました。そうした助言により、プロジェクト全体の進め方を冷静に見直すことができたと思います。
久保田:
私としては、若月さまを中心としたプロジェクトメンバーが、本来担うべき判断やマネジメントに集中できる環境を整えることを重視していました。
大規模なプロジェクトでは、多くのステークホルダーが関与することで、コミュニケーションの複雑性が飛躍的に高まります。その中で、適切な情報の可視化・共有に加え、プロジェクトを前に進めるために必要な意思決定ポイントを見極め、必要な情報を取捨選択しながら構造化していくことが不可欠になります。
そのうえで、PMOとしては、リーダーが担う意思決定以外の、プロジェクト推進に関わる業務の全般を主導的に担い、「何を検討し、どのタイミングで何を判断すべきか」を明確に定義しました。
意思決定に必要な情報の整理、論点設計、コミュニケーション設計までを一貫して担うことで、プロジェクトメンバーが判断そのものに集中できる状態を構築していきました。
混乱を乗り越え、安定したリリースと事業基盤の再構築を実現
―最終的に、このプロジェクトはどのような成果につながりましたか。
若月さま:
最終的には、日本法人における基幹システム刷新の大きな節目として、期限通りにSAP S/4HANAのリリースを実現しました。
100人以上の関係者が関わる大規模プロジェクトでしたが、途中の複雑な調整や数多くの課題を乗り越え、JSCさんの支援のもとでプロジェクトの推進体制と意思決定の精度を高めながら、無事リリースまでたどり着くことができたと思います。
導入直後には業務面で調整が必要な部分ももちろんありましたが、大きな混乱なく移行できたことは良かったと思います。
また、グローバル標準への移行により、業務プロセスやデータ管理も整理されました。今回の取り組みを通じて、今後の事業運営を支える基盤が整ったと感じています。
―今回ご一緒させていただく中で、JSCの支援について印象に残っている点を教えてください。
若月さま:
一番印象に残っているのは、議論内容を整理するスピードですね。思いつきで話した内容もその場で文書化され、どの情報が共有事項でどれがタスクなのかが明確に整理されていきました。内容を理解するスピードと文書化のスピードには、本当に驚いたのを覚えています。
一番大変なタイミングでPMOとしてプロジェクトに入っていただきましたが、キャッチアップも非常に早く、私にとっては一番の相談相手のような存在でした。単にタスクを管理するのではなく、プロジェクト全体の状況やメンバーの特性も踏まえながら、何を優先し、どこにリソースを投下すべきかを整理し、実行まで落とし込んでいただけたことで、プロジェクトの推進力そのものが大きく変わったと感じています。
さらに、必要な場面では本社に対して強く交渉していただくこともあり、日本側として言いづらい内容を代わりに伝えていただけたのも、非常に助かったポイントの一つです。
また、論点整理や情報の優先順位付けによって意思決定の精度とスピードが大きく向上しました。これまで複数のコンサルティング会社と仕事をしてきましたが、JSCさんほど意思決定の質とスピードに直接踏み込んで支援していただいたケースはなかったと感じています。情報整理や論点整理にとどまらず、「何をいつ誰が判断すべきか」まで含め意思決定の全般を支えていただけた点は、JSCさんならではの強みだと感じました。
加えて、本プロジェクト全体のリードであるドイツ本社所属のTom Wagnerも、「マネジメントとの議論やプロジェクト上の難題解決だけでなく、各種調整やプロジェクト内でのイベントごとの準備など、小さなことでもJSCさんは前向きに対応してくれた。そうした積み重ねが、プロジェクト運営を大きく支えていた」と話しており、現場レベルでも非常に助けられていたと感じています。今回のプロジェクトは、JSCさんの支援があったからこそここまでやり切ることができたものだと感じていますし、この経験は今後にも大きく活きていくと確信しています。
今回の取り組みでは、グローバル標準と日本要件の両立という難易度の高いテーマのもと、全社の幅広い業務領域に影響が及ぶ中で、国内外の関係者を巻き込みながらプロジェクトを推進していくことが求められました。
多様・多数のステークホルダーが絡む複雑な情報や利害の整理と構造化、論点整理を通じて意思決定の質とスピードを高めるとともに、第2のプロジェクトリーダーとして、クライアント側リーダーだけではカバーしきれない推進業務を担うことで、プロジェクトリーダーが判断そのものに集中できる状態を構築してきました。
今後も、プロジェクトの推進力を高める実行支援を通じて、お客様の変革を着実に前進させていきます。
※役職・肩書およびインタビュー内容は、取材当時のものです。
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